ゾンビ映画の歴史 90年で大量発生

アメリカ

ホワイトゾンビ すべてはここから

1932年、最初の長編ゾンビ映画としてよく挙げられるベラ・ルゴシ主演の『ホワイト・ゾンビ』が公開された。この作品はマインド・コントロールとアンデッドのテーマを、ハイチのヴードゥー教のレンズを通して探求したものだ。

この映画はブードゥーに対する強い誤解や切り取りに根付いていると批判されるものの、強力な魔術師の呪文によって生き返った死体としてのゾンビという、初期の映画描写に関連する多くの主題を確立してこの作品から多くの名ゾンビが誕生することになるのである。

White Zombie: Excerpt from 1932

ロメロ革命 ゾンビ映画の確立

ホワイトゾンビから第二次大戦も挟み30年以上がたったときにゾンビ映画の金字塔が公開される。

ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)である。ロメロは魔術的ゾンビのイメージから、死者がよみがえり生きている人を襲うという黙示録的世界観へとゾンビ映画の軸を変えた。またゾンビを肉食のグールーとして再定義した。

この映画のコンセプトのゾンビが今のほとんどのゾンビ映画に出演していると言っても過言ではないと思うような基礎を作ったのだ。

そしてホラー・ジャンルに社会批評を導入したのもロメロの功績である。ベトナム戦争と公民権運動を背景にしたこの映画は、ゾンビの黙示録を社会の崩壊と人間の暗黒面の隠喩として用いた。

ロメロはその後も、1978年の『ドーン・オブ・ザ・デッド』では消費主義を、1985年の『デイ・オブ・ザ・デッド』では軍事的・科学的傲慢を探求し、このゾンビ映画のジャンルにテーマ性を埋め込んだ。

熟成していく1980年代以降 ルチオ・フルチの国際化

この数十年の間にゾンビジャンルは多様化し、ホラーとコメディの両方を追求する作品が登場した。

イタリア人監督ルチオ・フルチはロメロブームに乗って勝手にナンバリングをつけて続編の様に『ゾンビ2』(1979年)を公開した。こちらはその生々しい目つぶしシーンや水中でのゾンビ対サメのバトルなどで知られイタリアン・ゾンビ映画の波の一部となった。残酷なスプラッター描写、いわゆるゴア表現が多いことで有名だ。

一方『リ・アニメーター』(1985年)のような作品はゾンビの物語にSFやブラックコメディの要素を取り入れている。同年の『リターン・オブ・ザ・リビングデッド』は、しゃべったり走ったりするゾンビなど、このジャンルにユーモラスな要素を取り入れた。

ゾンビ・ルネッサンスの2000年代

『28日後』(2002年): ダニー・ボイル監督によるこの映画は、高速で移動するゾンビというコンセプトを導入し、ウイルスや生物兵器という現実的な恐怖の側面に焦点を当てることで、より恐怖をあおる映画体験をもたらし、ゾンビジャンルを再活性化させた。この成功は、新世代のゾンビ映画やテレビ番組に影響を与えた。

『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年): エドガー・ライト監督によるこの作品は、ゾンビ・ホラーと英国的ユーモアを融合させた作品だ。それまでのゾンビ映画にリスペクトを表しつつ、現代の英国生活に斬新な解説を加えた変わった作品だ。ホラー愛好家だけでなく、多くの人々にもアピールする映画となった。

風刺を巧みに使い、現代生活の単調さや、日常に没頭しているためにゾンビアポカリプスに気づかないかもしれないという考えをコメントしたこの作品は、世界中の観客にうけた。

ウォーキングデッド  ゾンビは映画からドラマへ

『ウォーキング・デッド』(2010年~): テレビシリーズではあるが、「ウォーキング・デッド」はゾンビというジャンルに大きな影響を与えた作品だ。ゾンビの物語をテレビの主流視聴者にもたらした上に、ゾンビが支配する終末後の世界というあまり描かれてこなかった終わりのあとの世界での生存というテーマも新しいコンテンツの側面であった。

そしてTVシリーズのために映画よりも物語の可能性を広げ、キャラクターを深く成長させるなども可能となった。このシリーズはスピンオフや国際的な映画化も生み出し世界中でゾンビというジャンルではなくドラマのコンテンツというより大きな枠組みで長期的な大ヒットをした。

ちなみにこちらがジョージ・ロメロ監督。ホラー映画の巨匠とは思えない温和できさくな笑顔の人物である。

George A. Romero On ‘The Walking Dead’

ゾンビ映画は、現在の社会の恐怖や関心を反映しながら進化し続けている。感染、パンデミック、社会崩壊といったテーマは現代の観客の共感を呼び、2013年の『ウォーム・ボディーズ』のような恋愛ゾンビ映画から韓国のコンテンツの「釜山行き列車』(2016年)の激しいゾンビアクションを繰り広げながらの家族の絆、社会の分裂などを探求するハイテンションな作品まで色々な可能性を現在も試し続けている。

あえて締めくくるならば、良い意味で、新たなゾンビが毎年世界中で大量にわきでているといえるだろう。

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